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9割が「美味しい」と言った。でも1人の「美味しくない」で全部変えた

——ぼたんスープカレー開発記 第4話


その人がスプーンを口に運ぶのを、僕はカウンターの向こうから見ていた。
他のお客様が食べている時とは、表情が違った。
言葉を選びながら、でもはっきりと言われた。

「こちらの勉強不足かもしれないけど、私は美味しいとは思えない」。

100杯以上のスープカレーを提供してきた。
わざわざレジで「美味しかった」とおっしゃってくれるお客様もいた。
スタッフも全員美味しいと言っていた。

それなのに、届かない。

これは、その1人の言葉から、全部を変えた話だ。


目次

最初の「美味しくない」は、バージョン2.5で来た

実は、この方に言われたのは2回目だった。

1回目は、バージョン2.5の頃。
店頭で食べてもらう機会があった。

メッセージが届いた。
「コクが足りない。甘みも濃度も足りない。塩味も足りない」。

ショックだった。
でもこの時は、正直、自覚があった。
自分でも物足りなさを感じていた。

「改良します」と伝え、そこから味噌とイノシシ油に出会い、
バージョン3以降の大改革が始まった。
第2話で書いた、あの展開だ。

だから2回目は、満を持してのリベンジだった。


満を持した2回目。それでも「美味しくない」

10月、店内でプレ提供を始めていた。
数量限定で、少しずつお客様に出していた。

その方にもう一度食べてもらいたかった。
あの時から、味噌を入れ、イノシシの油を入れ、
テンパリングを覚え、食べ歩きで舌を鍛え、
バージョンを何度も上げてきた。

今なら自信がある。そう思っていた。

店内で食してもらった。
スプーンを口に運ぶ姿を見ていた。

表情が、違った。
他のお客様が食べる時の「美味しい」の顔じゃなかった。

言葉を選びながら、はっきりと。
「こちらの勉強不足かもしれないけど、私は美味しいとは思えない」。

その場では、ショックを取り繕うことしかできなかった。


100杯の「美味しい」と、1人の「美味しくない」

あなたなら、どうしますか。

100人が「美味しい」と言ってくれている。
1人が「美味しくない」と言った。

スタッフに話したら、こう言われた。
「このままでいいじゃないですか」。

正論だと思った。
9割以上のお客様に美味しいと言ってもらえている。
十分じゃないか。

でも、どこかにある自覚。
自分は素人だ。

間違っているのは、自分の方なのではないか。

その方より多くのスープカレーを食べてきた自信はある。
味もわかるようになってきた。
でも、届かない。

美味しいと言ってくださったお客様には、心から感謝している。
でも、改善点を探せるなら、探したい。

悔しかった。
怒りもあった。

でも最後に残ったのは、
「もう少し、もう少しだけ良くできるんじゃないか」という感覚だった。


AIに聞いた。「はちみつを入れてみたら」

そんな時はAIに聞けばいい。
この1年で身についた習慣だ。

ChatGPTに打ち込んだ。

「もっともっと美味しくするには?」
「コクを出すにはどうしたらいい?」
「こういうことを言われました。どうすればいい?」

悔しさも、状況も、全部入力した。

AIが返してきた答えの中に、こうあった。
「はちみつを入れてみればいいと思う」。

すぐに買いに行った。
すぐにやってみた。

一口食べた瞬間、味がまとまった。
驚くほど、まとまった。

コク、甘み、スパイス感。
バラバラだったものが一つになった感覚。

完成してしまえば、前までの味には明らかに足りないものがあった。
でも、その時には見えなかった。

はちみつ一つで、こんなに変わるのか。
これがバージョン8.5。
たどり着きたかった味だと、実感を持って感じた。


「これはうまいな」——震えるほど嬉しかった

でも、本当に大丈夫か。
自分の舌を、まだ完全には信じきれない。

AIも「これで完成です」とは教えてくれない。
AIは味見ができないから。

だから、人に聞いた。

スープカレーの世界に引き込んでくれたカレーマニアの先輩。
この人の舌なら信じられる。

食べてもらった。

「これはうまいな。他にもない味やけど」。

震えるほど嬉しかった。

次に、友人の調理を仕事にしている人に頼んだ。
「こういうことを言われてショックだった。
自信を持ちたいから、忖度なしで食べてもらえないか」。

エピソードを全部話した上で、食べてもらった。

「こんな複雑な味、よくまとめたな。めっちゃうまいと思う」。

この2人の言葉で、ようやく安心できた。
本当に美味しいものを、お客様に提供できる。


完成したと思った時に、もう一つ生まれた

実は、バージョン7の時点で一度「完成した」と思っていた。

完成したと思うと、次を考え始める。
飽きられないためには、もう少し種類がいる。

寒くなってきた頃、ふと思った。
シチューでも作りたいな。

ChatGPTに、こう頼んだ。

「シチューのように食べやすく、でも食べたらスープカレーだと思えるレシピを、
牛乳と豆乳を使って作って」。

牛乳と豆乳を入れるのは、完全に思いつきだった。
でもAIなら何とかしてくれるだろうと、ワガママを言ってみた。

返ってきたレシピで作ったら、美味しかった。

これが「ぼたんスープカレー白」の始まりだ。
赤味噌のぼたんスープカレーを「赤」と名付けたのは、この白ができてから。

AIとの付き合い方が、ここまで来ると変わってくる。
最初は「教えてください」だった。
今は「こんなワガママ、何とかなる?」になっている。

AIは、ワガママに応えてくれる相棒だ。
ただし、最後に「これでいい」と決めるのは、いつも自分の舌。

この関係は、バージョン1から8.5まで、一度も変わっていない。


1人の「美味しくない」が、教えてくれたこと

振り返ると、あの1人の言葉がなかったら、
バージョン7.3で止まっていたと思う。

9割の「美味しい」に安心して、
はちみつにたどり着かなかったかもしれない。

100人の「美味しい」は、自信をくれた。
1人の「美味しくない」は、完成をくれた。

どちらも、聞いたから受け取れた。
聞く力は、褒め言葉だけを拾う力じゃない。
痛い言葉を受け止めて、次の問いに変える力だ。

まず、一つだけ。
もし最近、誰かに何か言われて引っかかっていることがあるなら、
それをAIに打ち込んでみてください。
「こう言われた。どうすればいい?」と。

答えが正しいかはわからない。
でも、止まっていた感情が動き出す。
僕のはちみつも、悔しさをAIに打ち込んだ夜に見つかった。


次回予告(最終話)
第5話「ぼたんスープカレー、はじまります。——素人の1年間が店になる日」
——赤、白、麻辣。3つのメニューが揃い、3月20日グランドオープンへ。
3月20日公開。


このブログでは、飲食経験ゼロの僕がAIと一緒にスープカレーを作り上げた全過程を公開しています。
素人の挑戦が気になる方は、ぜひ続きも読んでみてください。


ぼたんスープカレー開発記

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この記事を書いた人

SATORY / SATORY's CAFE オーナー。株式会社サロンテリア大林 代表取締役。1980年丹波篠山市生まれ。19歳から人力車で身につけた「聞く力」を軸に、創業50年のインテリア事業、アウトドアショップ、AIを活用したスープカレー開発、15年間で10,000人以上へのキャリア教育を展開。コーヒーは100軒以上の店を巡った「趣味コーヒー」派。

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