——暮らしの自己満足 第1話
この仕事を始めた頃、インテリアのセオリーを学んだ。
色の組み合わせ。デザインの正しさ。空間における比率の法則。 「こうすれば美しくなる」という、インテリアの教科書に書いてあることを、頭に叩き込んだ。
それをもとに、提案していた。
ある日、一人のお客様に言われた。 「リビングに、フェラーリレッドのカーテンをつけたい」。
セオリーが、止まった
色彩心理学的に、赤は「興奮色」だ。
リビングに鮮やかな赤を持ち込むことは、落ち着きを損なう。 長く過ごす空間には向かない。 それがインテリアのセオリーだった。
でも、お客様のご要望だ。 生地を探した。作った。納品した。
カッコよかった。 正直、カッコよかった。
でも心のどこかで思っていた。 そのうち、変えてしまうだろうな、と。
20年後も、そのカーテンは使われていた。
愛着があるものを、人は大切にする
連絡をいただいた時、最初は何のことかわからなかった。
「あの時のカーテン、まだ使ってますよ」。
20年。 リビングで毎日開けて、毎日閉めて。 それでも変えずにいる。
セオリーが「NG」と言ったカーテンが、 その家で一番長く愛されているものになっていた。
そこで気づいた。
セオリーは、その人の「好き」に勝てない。
当たり前のことだ。 自分が選んで、自分が好きで、自分が気に入っているものを、人は大切にする。 どんなに「正しい」色より、「好きな」色の方が、長く一緒にいられる。
インテリアのセオリーは、あくまで「こうすると多くの人が心地よいと感じやすい」という話だ。 あなたの「好き」を否定する根拠には、一切ならない。
自分の仕事が、変わった
この気づきから、提案のスタイルが変わった。
「セオリー的にはこちらの方が……」という言葉を、使わなくなった。
その代わりに、聞くようになった。 「どんな気分でこの部屋で過ごしたいですか?」 「今の部屋で、一番好きなものは何ですか?」 「これ、気になりますか?」
答えの中に、その人だけの「好き」がある。 それを引き出して、インテリアにかっこよく取り入れる。 それが自分の仕事だと、フェラーリレッドのカーテンが教えてくれた。
正解のある部屋より、あなたが好きな部屋の方が、絶対に長く愛される。
インテリアは「正解」を買う場所じゃない。 あなたの「これがいい」を、形にする場所だ。
まず、一つだけ。 今いる部屋を見回して、「一番好きなもの」を探してみてほしい。 家具でも、雑貨でも、窓から見える景色でもいい。
それが見つかったら、次は「一番気になっているもの」を探してみる。 変えたい場所、なんとなくしっくりこない場所。
その二つが見えた時、あなただけのインテリアの話が始まる。
次回予告 第2話「『でも派手やから使えないよね』——その一言を、流さない」 ——サンプル帳を一緒に見ていると、たまに起きる瞬間がある。「めっちゃかわいい!——でも派手やから使えないよね」。その言葉を、流さないことから始まる話。
このブログでは、50年続くインテリア専門会社の代表が「好きを引き出すインテリア」の全てを公開していきます。 「暮らしの自己満足」が気になる方は、ぜひ続きも読んでみてください。 毎週土曜日更新予定です。
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