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人力車を引いていた僕が、なぜAIの話を書いているのか

19歳のころ、僕は奈良公園で人力車を引いていました。

あの頃、毎日していたことを一つだけ挙げるとしたら、それは「走ること」ではありません。「聴くこと」でした。

お客様を車に乗せて、走り出す前の数分間。いや、正確には走り出してからも、ずっと耳を澄ませていました。

「今日はどんなものが見たいですか」 「お時間はどのくらいありますか」 「歴史がお好きですか、それとも静かな場所で休みたい気分ですか」

この短いやり取りで、そのあとの一時間がまるきり変わるのをよく知っていました。聴かずに走り出した日は、どれだけ名所を回っても「なんかちょっと違ったなあ」で終わってしまう。逆に、最初の数分で相手が欲しているものを汲み取れた日は、会話が弾んで、お客様が笑って降りていかれる。

あの頃の僕は、走る技術より、聴く技術を磨いていた気がします。


それから20年以上が経って、僕は今、兵庫県丹波篠山市で内装の会社をやっています。壁紙を貼り、床材を敷き、お客様の暮らしを整える仕事です。その合間に、15年間キャリア教育の講師として1万人以上の高校生や中学生に「働くってなんだろう」を伝えてきました。

どれも一見、人力車とはまったく違う仕事です。でも、毎日やっていることの中心にあるのは、やっぱり「聴くこと」でした。

お客様が本当に求めている暮らしは何か。 社員は今日、どんな顔をしているか。 目の前の高校生は、どんな言葉なら心に届くのか。

19歳のあの頃に磨いた聴く力だけは、何年経っても、どの仕事に変わっても、ずっと隣にいてくれた気がしています。


さて、ここからが本題です。

2年前のある日、僕は初めてChatGPTというものを触りました。

最初は正直、「ふーん」くらいの感じでした。検索の代わりに使えるかな、くらい。でも何度か触っているうちに、だんだん妙な感覚が出てきたんです。

「これ、何かに似ているな」

その正体がつかめないまま、数日、頭の片隅で引っかかっていました。ある朝、コーヒーを淹れていて、ふと思い出したんです。

19歳のあの頃の、人力車の話を。

「ああ、あのときと同じだ」と気づきました。


ChatGPTが思い通りに動かないとき、ほとんどの場合、原因は自分の聴き方にあった。正確に言うと、自分がChatGPTに「伝えていないこと」があまりに多かった。

お客様の前で「歴史が好きですか、景色が好きですか」を聴かずに走り出したら、どんなに名所を回っても外すのと同じ。「誰に向けて」「どんな気持ちで」「どのくらいの長さで」を伝えずにChatGPTに文章を頼んでも、やっぱり外す。

そこに気づいたとき、僕の中でAIという言葉の印象ががらっと変わりました。これは、新しいIT機器の話じゃない。昔から知っている人間関係の話だったんです。


「AIって、ITが得意な人のものでしょ」

経営者仲間とAIの話をすると、よくこう言われます。わかります。僕もそう思っていました。

でも、2年間、自分で触って、社員にも使ってもらって、他の会社さんにも使ってもらって、今なら自信を持って言えます。

AIを使いこなすのに、ITスキルはいらない。

いるのは、「誰かにものを頼むときの伝え方」です。新人に仕事を渡すとき、あなたは何を伝えますか。「あれやっといて」じゃ動けないから、「誰宛てに」「いつまでに」「どんなトーンで」を添えますよね。AIに頼むときも、まったく同じことをするだけ。

じゃあ、誰がそれを一番うまくできるか。IT担当の若手でしょうか。違います。毎日、社員やお客様や取引先に指示を出し続けてきた社長です。

聴いて、伝えて、次を動かしていく。これを20年、30年やってきた人は、実はもうAIの達人の素質を持っている。足りないのは、AIという「ちょっとクセのある新しい仲間」の取り扱いの、ほんの少しのコツだけ。


僕がなぜ今、AIの話を書いているのか。

それは、僕が「新しい技術を紹介したい人」だからではありません。むしろ逆で、「古くから知っている話を、新しい道具の使い方に翻訳したい人」だからです。

人力車で学んだ聴く力。キャリア教育で1万人の学生と交わした対話。内装の現場でお客様の暮らしを聴き続けてきた時間。その全部が、今まさにAIの使い方に効いています。

だから、AIの話をします。ITの話ではなく、コミュニケーションの話として。最先端の話ではなく、昔からある当たり前の話として。

このカテゴリーでは、これからそういうことをじわじわと書いていくつもりです。


最後に一つだけ。

実は、ここまでに書いた話を含めて、地方の中小企業の社長向けに1冊の本にまとめました。タイトルは『AIへのアイが足りない。』。Amazonで出版しました

もしあなたが、「AIってうちには関係ないよなあ」と思っている社長さんなら、ぜひ手にとってみてほしい。きっと、「なんだ、ずっと知っている話じゃないか」と笑ってくださる気がしています。

詳しくはAmazonで「AIへのアイが足りない。」と検索してみてください。

次の記事では、「AIって結局なんなの?」という話を、もう少し具体的に書こうと思います。難しい話はしません。新人に仕事を教えるのと同じ温度で、書いていきます。

あなたの会社に、じわじわと豊かな時間が増えていきますように。


細見 勇人 / 兵庫県丹波篠山市にて

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この記事を書いた人

SATORY / SATORY's CAFE オーナー。株式会社サロンテリア大林 代表取締役。1980年丹波篠山市生まれ。19歳から人力車で身につけた「聞く力」を軸に、創業50年のインテリア事業、アウトドアショップ、AIを活用したスープカレー開発、15年間で10,000人以上へのキャリア教育を展開。コーヒーは100軒以上の店を巡った「趣味コーヒー」派。

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